神鉄粟生線の廃止問題と輸送密度の謎

 兵庫県内で鉄道事業を展開している神戸電鉄神鉄)はこのほど、赤字経営が続いている粟生線の存廃を2011年度中に判断する方針を固めたそうです。

神戸電鉄・粟生線 11年度中に存廃判断へ
神戸新聞ホームページ 2010年11月27日8時
 神戸電鉄は26日までに、赤字が続く粟生線鈴蘭台‐粟生、29・2キロ)について、2011年度中に存続か廃止かを判断する方針を固めた。赤字額が10年連続で10億円を超える見込みとなったうえ、利用促進策への国の補助も11年度で打ち切られるため、存廃の結論を急ぐことにした。(中略)同線の輸送人員は1992年度の1420万人をピークに減り続け、本年度は670万人程度の見通し。マイカー利用への転換や少子高齢化に伴う通学者の減少などが背景にあるという。(後略)

 輸送人員が約20年前の半分以下というのですから、この推移を見る限りでは廃止も仕方ないように思えます。手元にある『鉄道統計年報』で旅客の平均通過数量(輸送密度)を確認してみても、1998年度が1万5616人/日kmなのに対し、2007年度は9609人/日kmにまで減っています。

 粟生線の輸送人員が減少した要因としては、新聞記事にある「マイカー利用への転換や少子高齢化に伴う通学者の減少」のほか、別の交通機関への転移が挙げられます。神鉄の神戸側ターミナルは新開地にあり、神戸市内の中心地である三宮地区から少し離れているという不便をかこっているのですが、その一方で粟生線沿線の三木市や小野市から三宮に直通するバス路線が整備され、粟生線の利用者の多くがバスに流れたと考えられます。また、粟生線終点の粟生駅で連絡しているJR加古川線が2004年に電化され、粟生〜三宮間のJRルート(加古川経由)の利便性が向上したことも、粟生線の輸送量に影響を及ぼしているのではないでしょうか。

 ただ、粟生線の輸送人員は確かに減っているのですが、現時点でも輸送密度は9000人台を維持しているわけです。これは、かつての日本国有鉄道経営再建促進特別措置法国鉄再建法)施行令を基準にすれば幹線に相当する路線であり、通常は廃止問題が浮上するような段階には達していないはずです。そもそも、同じ神鉄が経営している公園都市線の輸送密度は2007年度が6019人/日kmで、廃止の話が出るなら公園都市線の方が先ではないか、とも思います。

 輸送密度が9000人以上もありながら、なぜ廃止という話になるのか。粟生線は1回しか乗ったことがなく、現地の事情もよく分からないのですが、設備の増強後に輸送人員が減少したという「不運」が影響しているのではないかと思われます。

 神戸電鉄では1970〜1990年代に信号所の増設や部分複線化などによって粟生線の輸送力増強を推し進め、近郊ローカル線から都市型通勤鉄道への脱皮を図っていきました。各種施設を都市鉄道向けに改良するということは、設備更新のための工事費はもちろんのこと、設備の維持費用もローカル線のそれより増加しますが、これは輸送人員が増加すれば運賃収入の増加で回収することができます。実際、神戸新聞の記事にもあるように、1992年度までは輸送人員の増加が続いていたわけです。

 ところが1992年度以降、前述した事情で輸送人員が徐々に減少し、輸送力増強のための費用の回収が困難になった。このため、輸送密度が9000人台でありながら経営が悪化したのではないかと思われます。神鉄少子高齢化等による多少の減少も想定した上で設備の増強を図っていたのではないかと思われますが、バスの充実や加古川線の電化による減少は想定外だったのではないでしょうか。

 もちろん、神鉄も手をこまねいているわけではなく、列車のワンマン運転化を図るなどの対策を講じています。ただ、粟生線はラッシュ時と閑散時の輸送量の差がかなり大きいようでして、ラッシュ時の混雑を前提とした設備を維持する必要がある以上、列車の短編成化による費用の節減が難しいという事情を抱えています。また、粟生線では最大50‰という急勾配区間が随所にあるため、これに対応した車両を使用する必要があり、たとえば運転費用の節減に効果があるとされる軽量気動車の導入も難しいのです。

 とはいえ、輸送密度が9000人台でありながら廃止というのは少しもったいない気もしますし、そもそも輸送密度が9000人台の鉄道路線をバスに転換した場合、道路渋滞が極度に悪化することも考えられます。たとえば公設民営による上下分離方式の導入で鉄道を維持できないものかと思うのですが。
 ただ、ここ10年ほどで輸送密度が6000人/日kmほど減少していることを考えると、仮に今の段階で鉄道の存続を決めたとしても、また10年ほどで廃止問題が浮上してくる可能性もあります。だとすれば、傷口が大きくならない今のうちに、「決断」するというのもアリなのかもしれません。

コメント

  1. mukohatsu より:

    神鉄粟生線の話を興味深く拝見致しました。

    5年前に起きた福知山線の事故のとき「以前は阪急を使っていたが、JR化後の福知山線が速くて便利なのでJRを使うようになった。事故は怖いがやはりJRのほうが速いと…」インタビューに応えていた沿線の利用者が印象的でした。

    新開地駅も神戸の繁華街とはいえず、中心部の三宮や元町へは乗り換えなければならない。だけど北神急行経由だと運賃が高い、と。つまりは神鉄が便利と思われていないのでは…。

    三宮周辺を車で走り回ったことがあるのですが、驚くべきは繁華街周辺の駐車料金が非常に高いという事です。でもそれだけ車で来る人が多いという証拠でもありましょう。特に三宮中心部は駐車場が混雑しています。

    神鉄にとって最大のライバルはマイカーでしょう。通勤者は会社から貸与されている定期券で鉄道を利用しますが、専業主婦は定期券を持ってないため基本的に車で移動するので電車は使わない→相対的に集中率が高くなってオフピークはガラガラ→団塊の世代が退職すればますます電車に乗らなくなる、という図式でしょう。これは神鉄に限らないですが。

    神戸の場合、小さい事業体がいくつもあって公共機関を乗り継ぐと金がかかるところもマイカー指向に拍車をかけていると言えないでしょうか。

  2. kusamachi より:

    mukohatsuさん:
     コメントありがとうございます。先に書いたとおり、粟生線は1回しか乗ったことがないので、細かな事情はよく分からないのですが、ライバルがマイカーということになると、神鉄は都市鉄道の顔をしたローカル線なのだなぁと、つくづく思います。
     数回ほど乗ったことがある有馬線や三田線にしても、車窓は地下鉄と山岳地帯と近郊ローカル線のそれがごった煮のように連続しているわけで、こうしたアンバランスな沿線事情が神鉄の経営を苦しめているのかもしれませんね。

  3. 結崎秀 より:

    初めて投稿致します。
    なかの里noteを運営しております結崎秀と申します。
    東播磨に住み粟生線沿線にもよく出るため強い関心を持っているところであります。

    先日の小野市市議会選挙でも話題になっているなど沿線でも注目はされているようですが、温度差があるのが事実で三木市ではあまり話題になっていません。なんとなく三木鉄道のときからの流れで鉄道への関心はそれほど高くないようです。

    また、自治体も巨額の赤字と税収入の減少で上下分離をしたくても資金足りないこと。神鉄の経営体質と赤字の要因への懐疑的な部分が見られるなど存続への一丸となった姿勢に乏しいのが今の現状だと思います。
    記事にも記されていらっしゃいますが、今の危機を回避しても根本的な対策を打たないとおそらく10年もしないうちに危機が訪れるのは明確だと思います。

    平行する神姫バス自身も赤字路線が多い中、神鉄に客を譲るようなことは出来ないでしょうし非常に難しい問題だと思います。

  4. kusamachi より:

     結崎秀さん、コメントありがとうございます。何分にも現地の状況がさっぱり分からないのですが、三木市の「なんとなく三木鉄道のときからの流れ」というのはありそうですね。三木鉄道の場合、三木市民が廃止を積極的に選択したという経緯がありますし。
     統計上は輸送量が多いだけに何とも歯がゆいのですが、まずは沿線の住民や自治体が粟生線をどう位置づけたいのか、その考えをまとめていただく必要があるように思います。

  5. 三木男 より:

    初めて投稿します。
    神戸電鉄粟生線廃止を聞いたのは1年前に、或る医院に行ったと時、医者が「どうなるのですかね〜この街は、もう若い人が住めない町になってしまいます。」
    という言葉で初めて知りました。

    仕分けで国の援助が切られることも聞きました。
    仕分けを決めた議員に怒りを覚えました。

    私の娘は20年前三木駅から粟生線で5年間通学しました。
    あまりの混雑に何度か貧血を起こしたり、勿論痴漢にも遭いました。

    就職を考えたとき、通勤に何年もこの辛さを与えてはいけないと思い、近場での就職か、就職先で一人住まいをするか、の二つを考えましたが、当時は就職氷河期でもあり、近場では思う就職が無く、大阪の就職先の近くに、一人住まいをすることを選択しました。

    20年前はそのような状況で有りましたが、今乗客数が激減しているとは言え廃線という言葉が出ることが信じられません。

    この辺りの道路は1車線です。
    今でも、朝夕は渋滞し、まして事故でも有れば大変。
    鈴蘭台の当たりでは雪も積もることが多い地域です。

    この道路状況で廃線など有りえません。廃線にするなら
    道路整備が先だと思います。

    私は三木の中でも比較的早く廃線の情報を知りましたが、今でも廃線の事を知らない人が多くいます。

    三木の人は関心が無いというより知らされていない人が多いのです。

    三木鉄道廃線の場合、鉄道は三木の中でも昔からの田園地帯を短い距離を走っていたので、乗客も少なく、バス輸送になってもそれほど不便も無く、反対もあまり有りませんでした。
    我々は三木にそんな鉄道が走っていることも知らなかったのですから。

    今回の粟生線は新興住宅街を抱えた駅が殆どで、朝夕の利用者が多く、昼間はガラガラという状態は現実です。

    私が不思議なのは粟生線廃止を市があまり関心ないように思います。
    近くにJR加古川線が小野や社で住民運動もしていると聞きましたが、粟生線しか鉄道のない三木が何故、盛り上がっていないのか不思議です。

    先般の地方選でも殆ど廃線反対を強く掲げた候補がいなかったこと。
    市役所に行っても一切ポスターなどの張り紙などが無いこと。
    自治会の上の方の団体でも一切問題になっていません。
    だから、未だに署名運動や説明会も有りません。

    自治会と市役所は夏祭りだ、敬老会だと住民を集め、町会の人を使って用事を振り分けて行事をしている場合では無いと思う。
    もっとすることが有るだろう! と言いたい。

    市は廃線の事に触れることを避けているように感じてしまう。
    だから今でもこの重大事を知らない市民が多くいるのだと思う。

    廃線になれば三木は陸の孤島化する事は目に見えています。

    今近くの住宅街に大手住宅メーカーが40件近くの住宅を売り出そうとしています。

    売り出されれば広告に
    「神戸、三宮まで一時間以内」とか書くのでしょうか?
    勿論、嘘ではないけれど、廃線の事、その後に起きる道路の混雑を考えれば到底無理だと思う。

    国旗議員の仕切屋様、仕切る前に移動人口、道路状況などを見に来て欲しかったよ。

    勝手なことばかり書かせていただきました。

  6. kusamachi より:

     三木男さん、コメントありがとうございます。
     粟生線の問題を「知らされていない」のだとしたら、沿線住民の多くは地元の問題について能動的に知ろう、考えようという人が少ないのかな、と感じます。この手の問題は基本、受け身ではどうにもならないわけでして。
     前のコメントでも少し書きましたが、まずは沿線の住民や自治体が、この問題についての考えをまとめ、そして行動するしかないように思えます。

  7. . より:

    まあ、「赤字補填は一切しない。ただし神鉄は毎時4本/hを減らすことは許さない」という姿勢を
    地元がとり続けたために神鉄そのものの経営体力がなくなったのが原因なので、因果応報でしょう。

  8. より:

    さっさと西鈴蘭台以西を廃止してBRT化したほうがいいと思うけどね。