JRネットワークから外れる大湊線

 JRグループ旅客6社は昨日、JR線の普通列車が期間限定で5日(5回)分乗り放題となる割引切符「青春18きっぷ」について、冬季用を発売すると発表しました。

 青春18きっぷは春・夏・冬の3シーズンに発売されていますが、今年は冬季用の発売が中止されるという情報が一部で出回り、その動向が注目されていたところでした。今回の発表によれば、発売期間が12月1〜31日、利用期間が12月10日〜1月10日とのことで、期間が短縮されているものの、結局、従来通り発売されることになりました。
 ところで、今回の冬季用では興味深い特例が設定されています。以下、JRグループ発表のプレスリリースからの引用です。

※1 青い森鉄道線の青森〜八戸間、青森〜野辺地間及び八戸〜野辺地間については、普通・快速列車に乗車して通過利用する場合に限り、別に運賃をお支払いいただくことなくご利用になれます。当該区間青い森鉄道線で下車した場合、別に乗車区間の運賃が必要になります。
ただし、青森駅野辺地駅八戸駅に限り途中下車することができます。
例:青森駅から野辺地駅を経由して大湊線大湊駅へ向かう場合
(1)青森駅から大湊駅まで下車せず旅行する場合
青森〜野辺地間の青い森鉄道の運賃は不要です。
(2)青森駅から浅虫温泉駅で途中下車して大湊駅まで旅行する場合
青森〜浅虫温泉間と浅虫温泉〜野辺地間の青い森鉄道線の運賃が必要です。

 冬季用の利用期間がスタートする6日前の12月4日に東北新幹線八戸〜新青森間が延伸開業し、同時に新幹線の並行在来線となる東北線八戸〜青森間が、JR東日本の経営から分離されて青い森鉄道の運営になります。つまり、東北線の経営分離によって、本来なら青春18きっぷで乗車できる路線が減少することになるのですが、今回の冬季用では経営分離区間である八戸〜青森間も、条件付きながら乗車できるようにしたわけです。
 このような特例を設けた理由としては、経営分離による改札コストや検札コストの増加を抑制するというのが真っ先に思い浮かびますが、もう一つの理由として、「飛び地線」となる八戸線大湊線への連絡を考慮した可能性も考えられます。
 すでに述べているように、東北新幹線の延伸に伴い東北線八戸〜青森間が第三セクター化されますが、これにより八戸駅東北線から分岐する八戸線と、野辺地駅で分岐する大湊線は、ほかのJR在来線との接続がなくなります。八戸線東北新幹線と連絡していますから、JR他線との連絡がまったくなくなるわけではありませんが、大湊線は新幹線、在来線ともに連絡がなくなり、JRのネットワークから完全に外れた、正真正銘の「飛び地線」になるわけです(写真は大湊線下北駅)。
 運営する路線が直接つながっていない鉄道事業者は、必ずしも珍しいものではありません。八戸線と接続している三陸鉄道は、北リアス線南リアス線の間(宮古〜釜石)にJR東日本の山田線が挟まっていて路線が離れていますし、大手私鉄では東武鉄道伊勢崎線系統と東上線系統に分かれています。また、以前紹介した伊豆箱根鉄道にしても、神奈川県内の大雄山線静岡県内の駿豆線に分かれています(伊豆の2社を忘れていた)。しかし、全国ネットワークを構築しているJRグループ鉄道路線において、既存のネットワークから完全に外れてしまう路線というのはこれまで例がなく、今回の大湊線が初めてということになります。
 旧国鉄時代を含めてみると、新橋〜横浜間の次に開業したのが大阪〜神戸間であったように、鉄道黎明(れいめい)期の官設鉄道は「飛び地線」だらけでしたが、官設鉄道のネットワークの整備や私鉄路線の国有化が進むとともに、飛び地状態の路線はいつしか解消されていきました。なお、1975年に貨物線として一部開業(千葉貨物ターミナル〜都川)した京葉線が最後の国鉄飛び地線であったと思われますが、この区間は開業時に都川〜蘇我間の川崎製鉄専用線を借り入れて内房線外房線と連絡していたので、厳密な意味での飛び地線であったとは言い難いですし、現在は西船橋方面や蘇我方面への延伸で飛び地状態が解消されています。
 今後も、整備新幹線の開業に伴う並行在来線の経営分離により、並行在来線から分岐するJR支線の飛び地線化が多数発生する見込みです。2014年度末の完成が予定されている北陸新幹線長野〜金沢間でも、並行する信越線や北陸線の経営が分離され、JR西日本七尾線が完全な飛び地線となります。氷見線城端線は、城端線北陸新幹線の交差部付近に新幹線駅(新高岡駅)との連絡駅が新設される模様なので、JR他線との連絡は維持されますが、JR在来線ネットワークから切り離されるのは確実ですし、大糸線南小谷糸魚川間と高山線猪谷〜富山間では北陸新幹線のほかJR東日本JR東海の在来線との連絡は維持されますが、JR西日本のほかの在来線ネットワークからは切り離されます。なお、JR西日本はこれら飛び地線についても並行在来線と同様に経営分離したいとの意向を示した時期がありましたが、最近の方針がどうなっているのかはよく分かりません。
 もちろん、飛び地線化するといっても、第三セクター化される並行在来線との連絡がなくなるわけではありませんし、場合によっては並行在来線からの直通運転もあるでしょう。とはいえ、整備新幹線並行在来線の経営分離により、営業管轄上は分断される飛び地線がさらに増えていくのは確実です。
 今回の大湊線の飛び地線化は、JR在来線ネットワークの「崩壊」を示す、典型的な事例の一つといえるかもしれません。