すべての国の鉄道に乗れるか

 わたしは日本の鉄道路線の全線完乗をいちおう目指しているのですが、2008年7月に未乗距離が700km台になったところで止まっています。
 先日、ユーラシア大陸を2カ月ほどかけて鉄道で横断しましたが、これは例外中の例外。いつもは自宅に引きこもって原稿を書いていることの方が多く、それが乗りつぶし、というより実物の鉄道に触れる機会を減らしているのかもしれません。恥ずかしながら鉄道ライターを名乗っているくせに列車に乗車する機会が減っているとは、何とも皮肉な話です。
 もっとも、週末や連休を利用した乗りつぶし旅行をあと数回繰り返せば全線完乗を達成できる見込みですので、そう遠い話ではない。そのため、最近は全線完乗の「その後」をどうしようかと考えているところです。

 日本の鉄道を完乗したら、次は世界の鉄道完乗か。しかし、世界の鉄道の総延長は1980年ごろの推定で約120万km(窪田太郎『時刻表世界の旅』日本交通公社、1980.9)。JR全線(約2万km)の場合、一気に乗りつぶしたとしても1カ月くらいはかかると思われますので、世界の鉄道を完乗するには最短で1800日=約5年かかる計算になります。仮に毎月1週間は海外に出かけ、出国と帰国のアクセス日を除く5日間を鉄道の乗りつぶしに当てるとすれば1年で60日になりますから、世界の鉄道完乗には30年の歳月が必要ということになります。海外に毎月出かけられるほどのお金も時間もありませんし、かといって海外に出かける間隔を長くすれば2カ月間隔で60年、半年間隔で180年、1年間隔で360年となり、生きているうちに完乗することは困難です。
 そもそも、この試算はJR並みの列車速度と運転本数があると仮定した計算。海外の鉄道路線は旅客列車が1週間に1本しか走っていないような路線も多く、速度も発展途上国を中心にとんでもなく遅い列車があるため、この計算のペースで乗車距離を伸ばせるとはとても思えません。

 ただ、世界の鉄道完乗は無理でも、すべての国の鉄道路線に乗車することは可能かもしれません。「すべて」と言っても鉄道が存在しない国、厳密に言えば旅客営業路線が存在しない国は除外できますし、たとえ1kmでも列車に乗れば、その国の鉄道に乗車したことになりますから、これなら生きているうちにできるかも。そんなわけで、世界各国の鉄道の有無を、以下の表にしてみました。

◆凡例

  • 掲載国:原則として(1)国際連合に加盟している国、または(2)国連未加盟だが日本国との国交がある国を対象とした。ただし、国連未加盟で日本国との国交が無い地域についても、(a)外務省ホームページの「各国・地域情勢」において、地域情勢の項目に記載がある地域、または(b)『トーマスクック・ヨーロッパ鉄道時刻表(日本語解説版)』2010年冬・春号(ダイヤモンド・ビッグ社)、『OVERSEAS TIMETABLE』Winter 2009/10 edition(Thomas Cook publishing)において独立した項目が設けられている地域は、参考地域として付記した。
  • 国名:原則として通称。参考地域は冒頭に「※」を付した。
  • 有無:『ヨーロッパ』『OVERSEAS』の説明に従い、以下のように分類した。
    • ◎ 旅客列車の時刻表欄が記載されている国・地域
    • ○ 旅客列車の時刻表欄は記載されていないが、旅客鉄道が存在すると説明されている国・地域
    • △ 貨物鉄道のみ存在する、または旅客鉄道が存在しないと説明されている国・地域
    • × 鉄道または鉄道の営業路線は存在しないと説明されている国
    • ? 鉄道の有無について明確な説明がない国
  • 備考:『ヨーロッパ』『OVERSEAS』による説明等を参考に補足。両書による説明は、草町による適当な意訳(苦笑)によりカギカッコでくくった。

◆アジア

国名 有無 備考
インド  
インドネシア  
韓国  
カンボジア 時刻表欄はあるが列車時刻の記載無し
北朝鮮  
シンガポール  
スリランカ  
タイ  
中国  
日本  
ネパール  
パキスタン  
バングラディシュ  
東ティモール ×  
フィリピン  
ブータン  
ブルネイ ×  
ベトナム  
マレーシア  
ミャンマー  
モルディブ ×  
モンゴル  
ラオス 「タイからの乗り入れ路線が開業」
※台湾  
※香港  
マカオ ×  

◆北米

国名 有無 備考
カナダ  
アメリ  
グリーンランド ×  
バミューダ諸島 ×  

中南米

国名 有無 備考
アルゼンチン  
アンティグア・バーブーダ トーマスクック非掲載
ウルグアイ  
エクアドル  
エルサルバドル  
ガイアナ  
キューバ  
グアテマラ 「2007年から休止中」
グレナダ トーマスクック非掲載
コスタリカ  
コロンビア  
ジャマイカ トーマスクック非掲載
スリナム  
セントビンセントおよび
グレナディーン諸島
トーマスクック非掲載
セントクリストファー
・ネーヴィス
「観光鉄道がある」
セントルシア トーマスクック非掲載
チリ  
ドミニカ国 トーマスクック非掲載
ドミニカ共和国 「地下鉄がある」
トリニダード・トバゴ ×  
ニカラグア ×  
ハイチ ×  
パナマ  
バハマ  
パラグアイ  
バルバドス トーマスクック非掲載
ブラジル  
ベネズエラ 時刻表欄はあるが列車時刻の記載無し
ベリーズ ×  
ペルー  
ボリビア  
ホンジュラス  
メキシコ  
オランダ領アンティル  
プエルトリコ 「地下鉄がある」
フォークランド諸島 ×  
フランス領ギアナ ×  

◆欧州・旧ソ連

国名 有無 備考
アイスランド × トーマスクック非掲載
アイルランド  
アゼルバイジャン  
アルバニア  
アルメニア  
アンドラ × スペインの項目にバス路線のみ記載
イタリア  
ウクライナ  
ウズベキスタン  
英国  
エストニア  
オーストリア  
オランダ  
カザフスタン  
キプロス トーマスクック非掲載
ギリシャ  
キルギス  
グルジア  
クロアチア  
コソボ セルビアの項目に記載
サンマリノ × イタリアの項目にバス路線のみ記載
スイス  
スウェーデン  
スペイン  
スロバキア  
スロベニア  
セルビア  
タジキスタン  
チェコ  
デンマーク  
ドイツ  
トルクメニスタン  
ノルウェー  
バチカン トーマスクック非掲載。イタリアから乗り入れる貨物線がある。
ハンガリー  
フィンランド  
フランス  
ブルガリア  
ベラルーシ  
ベルギー  
ポーランド  
ボスニア・ヘルツェゴビナ  
ポルトガル  
マケドニア  
マルタ × トーマスクック非掲載
モナコ フランスの項目に掲載
モルドバ  
モンテネグロ  
ラトビア  
リトアニア  
リヒテンシュタイン オーストリアの項目に掲載
ルーマニア  
ルクセンブルク  
ロシア  

大洋州

国名 有無 備考
オーストラリア  
キリバス トーマスクック非掲載
サモア トーマスクック非掲載
ソロモン諸島 トーマスクック非掲載
ツバル トーマスクック非掲載
トンガ トーマスクック非掲載
ナウル トーマスクック非掲載。かつて炭鉱鉄道が存在した。
ニュージーランド  
バヌアツ トーマスクック非掲載
パプアニューギニア トーマスクック非掲載
パラオ トーマスクック非掲載
フィジー トーマスクック非掲載
マーシャル トーマスクック非掲載
ミクロネシア トーマスクック非掲載
クック諸島 トーマスクック非掲載
※ニウエ トーマスクック非掲載

◆中東

国名 有無 備考
アフガニスタン × ウズベキスタンから乗り入れる貨物線があり、延伸工事中。
アラブ首長国連邦 × ドバイの地下鉄が2009年に開業
イエメン ×  
イスラエル  
イラク  
イラン  
オマーン ×  
カタール ×  
クウェート ×  
サウジアラビア  
シリア  
トルコ  
バーレーン ×  
ヨルダン  
レバノン × 「最近は鉄道サービスが無い」
パレスチナ トーマスクック非掲載

◆アフリカ

国名 有無 備考
アルジェリア  
アンゴラ  
ウガンダ 「旅客営業は休止中」。時刻表欄はあるが列車時刻の記載無し。
エジプト  
エチオピア  
エリトリア  
ガーナ 「多くの主要路線が運休中」
カーボヴェルデ トーマスクック非掲載
ガボン  
カメルーン  
ガンビア ×  
ギニア 「全線運休中」。時刻表の記載はある
ギニアビサウ ×  
ケニア  
コートジボアール  
コモロ トーマスクック非掲載
コンゴ共和国  
コンゴ民主共和国  
サントメ・プリンシペ トーマスクック非掲載
ザンビア  
シエラレオネ ×  
ジブチ エチオピアからの国際路線のみ」
ジンバブエ  
スーダン  
スワジランド 「限定的な旅客鉄道サービスが提供されている」
セーシェル ×  
赤道ギニア ×  
セネガル  
ソマリア ×  
タンザニア  
チャド ×  
中央アフリカ ×  
チュニジア  
トーゴ  
ナイジェリア  
ナミビア  
ニジェール ×  
ブルキナファソ  
ブルンジ ×  
ベナン 時刻表欄はあるが列車時刻の記載無し
ボツワナ  
マダガスカル  
マラウイ  
マリ  
南アフリカ  
モザンビーク  
モーリシャス トーマスクック非掲載
モーリタニア  
ロッコ  
リビア × 「鉄道建設中」
リベリア  
ルワンダ ×  
レソト ×  
※レユニオン ×  

 『最新 世界の鉄道』(ぎょうせい、2005.6)を確認すれば、鉄道の有無どころか各国の鉄道の詳細が分かるはずですが、手元にありません。いずれ購入したいと思います。

 以上の表から旅客列車に乗車できると思われる国と地域(「◎」「○」)を数えてみたところ、133カ国・地域。1年6〜7カ国くらいのペースで乗車すれば、20年くらいで達成できる計算になるでしょうか。
 ただ、ここ20年間でわたしが列車に乗ったことのある国・地域は、通過しただけの国・地域を含めても日本、韓国、シンガポール、マレーシア、中国、台湾、香港、カザフスタンキルギスウズベキスタントルクメニスタン、イラン、トルコ、ブルガリアセルビアハンガリーオーストリアチェコ、ドイツ、フランス、イギリスの21カ国・地域。完乗に比べれば実現性が高いとはいえ、今のペースのままではやはり難しいようです。

コメント

  1. たむよし より:

    草町さんの記事をときどき読ませていただいています。
    5年前に日本の鉄道を完乗したとき海外の完乗をちょっと考えたことはありますが、どう考えても無理なので考えただけで終わっていました。なるほど、全ての国の乗車なら、ライフワークのつもりでやれば実現できそうですね。
    表を参考にカウントしたら、4回の海外旅行で韓国・中国・アメリカ・イギリス・フランス・ベルギー・オランダ・ドイツ・スイス・イタリア・モナコの11国で乗ってます。まずはヨーロッパを制覇したいです。

  2. KANTANBI より:

    経県値の海外鉄道版みたいなものですか? これは面白いかも。
    でも、私の訪問国は韓国と台湾だけですが。

  3. kusamachi より:

    たむよしさん
    ヨーロッパなら一度の旅行でまとまった数の国を訪問できそうですね。モナコなんか、フランスからイタリア方面に向かう路線で通過するだけで完乗できてしまいますし。

  4. kusamachi より:

    KANTANBIさん
    なるほど『経県値』ですか。確かに発想はそれに近いものがありますね。
    わたしにしても、先日のユーラシア横断で一気に訪問国を稼いでおり、それ以前は日本を除いて韓国、シンガポール、マレーシア、中国、台湾、香港の6カ国・地域だけですから、似たようなものです。

  5. twins より:

    スイス、リヒテンシュタイン、オーストリア、ドイツ、フランス、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、ベルギー、イタリア、ルクセンブルク、イギリス、ハンガリー、スペイン、ポルトガル、フィンランド。計16カ国か…見事に偏ってるな(笑)
    見ただけで、ひと駅でもいいから乗っときゃよかったと思う、パキスタンが、こうなると惜しい。
    次の目標は、ロシアかな?

  6. kusamachi より:

    twinsさん
    わたしもロシア、というよりシベリア鉄道に乗りたいですね。ただ、あの国は列車やホテルの予約を事前に済ませておかないと、基本的にビザが発給されないというのがどうも。せめてカザフかウズベク程度にビザ制度が緩和されればと思うのですが。