「幻の成田新幹線をたどる」東京駅について補足

 もう2年くらい前になりましたが、交友社発行の月刊誌『鉄道ファン』2008年8月号に「幻の成田新幹線をたどる」という記事を書いたことがあり、このブログでも工事実施計画認可申請書に添付されていた縦断面図の謄本を紹介させていただいたことがあります(成田新幹線の線路縦断面図)。

 この記事を書く直接のきっかけとなったのは、京葉線東京駅と成田新幹線の関係です。ちまたの俗説では、京葉線の東京駅地下ホームは成田新幹線用として建設されたホームを転用したものと言われていましたが、確か国鉄分割民営化の前後でしたか、わたしは東京―有楽町間を列車で通過するたび、鍛冶橋通りとの交差部で京葉線東京地下駅の工事施設を窓越しに何度も見た記憶があります。
 成田新幹線用に完成したホームを転用したのであれば、この時点で工事施設が外から見えるはずはないわけで、自分の記憶とちまたの俗説に隔たりのあることが、ずっと気になっていたのです。

 それで、暇を見つけては当時の資料を探し出し、成田新幹線の東京駅は掘削工事すら行われていなかったこと、東海道新線(横須賀地下線)の有楽町トンネルは成田新幹線予定地との交差部において補強工事を行っていたことなどが明らかになり、東京駅も含めて1本の記事にまとめたわけです。
 ただ、記事執筆時点では補強工事の内容や時期が分からず、日本国有鉄道国鉄)東京第一工事局の機関誌『東工』に掲載されていた主要工事概要報告の記述から「(補強工事は)昭和51(1976)〜52(1977)年度ごろに実施されたようだ」と推測するだけにとどめていました。

 しかし、このほど『東海道線線増工事誌 東京・品川間』(国鉄東京第一工事局、1977.3.31)と『京葉線工事誌』(日本鉄道建設公団、1991.3)を確認したところ、成田新幹線関連の工事について、詳細が記載されていました。
 『線増工事誌』によると、まず有楽町トンネルの土木工事の段階で「第1たて坑発進口より上下線約71.0m間に渡り鉄筋コンクリートで2次覆工を行うもので、将来この区間の下を成田新幹線工事が施行される予定で、その際当工事が円滑に行なわれる様又本シールドの沈下及びひび割れ防止を防ぐ事を目的とする」(297ページ)としてシールドの2次巻が行われており、さらに軌道工事の段階でも「土木においてはシールド本体の2次巻、インバートコンクリートの鉄筋量の増大等の施工を実施したがこれにともなって、軌道も道床コンクリートの補強を施工した」(943ページ)としています。
 また、『京葉線工事誌』でもほぼ同様の記述が見られ、「(横須賀地下線の)シールド内部は、建設当時に計画されていた成田新幹線東京地下駅の建設を想定して、今回の仮受け区間を含むシールド発進立坑71m間が2次巻き鉄筋コンクリート(厚さ20cm)およびインバート部は梁構造の鉄筋コンクリートで補強されている」(849ページ)としています。
 『線増工事誌』『京葉線工事誌』ともに、補強工事単体の工事期間は記されていませんが、いずれも横須賀地下線の土木工事、軌道工事の段階で施工されていますから、少なくとも横須賀地下線の東京―品川間が供用を開始した1976年10月1日以前に補強工事を実施し、そして完成させたことは確実です。そもそも『線増工事誌』の発行日が1977年3月31日(=1976年度末)ですから、わたしの推測範囲である「1976〜1977年度」のうち1977年度は明らかに補強工事の期間から外れます。

 実は『鉄道ファン』の記事執筆時点で『京葉線工事誌』は確認していたのですが、一体どこをどう読んでいたのか、成田新幹線に関する詳細な記述を見つけられなかったのでした。単なる調査不足ならまだしも、あまりにも間抜け過ぎて恥ずかしい限り。成田新幹線についてまとまった記事をもう一度書く機会があれば、横須賀地下線の有楽町トンネル補強工事について、もう少し踏み込んだ解説をしたいところです。

 なお、このブログ記事の執筆に当たっては、takuya870625さんのブログ『Reports for the future 〜未来へのレポート〜』の「幻の成田新幹線計画と東京駅(その2) – 京葉線新東京トンネル(20)」を参考に、各文献を確認させていただきました。基本的には京葉線新東京トンネルの工事内容に関する記事ですが、成田新幹線との関係についてもひじょうに詳しくまとめられており、わたしの記事よりよっぽど参考になります(苦笑)。この場を持って、お礼申し上げます。

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コメント

  1. takuya870625 より:

    横須賀線のトンネルに関してブログの記事を書きましたtakuya870625です。今回は私の記事をご紹介いただきありがとうございます。

    先日「鉄道ファン」の7月号に草町様が寄稿された「空中写真で楽しむ鉄道廃線跡」の記事を拝読させていただき、同じ調査手法を活用している者としてある種の親近感を覚えるとともに、今後どのような新しい調査報告を展開してくださるのか期待を膨らませております。
    鉄道の土木構造物や建築物についてはまだまだ明らかになっている情報が少なく、あったとしても草町様のような公式資料を基に事実を検証しているのではなく、個人レベルの憶測に基づくデタラメな情報の場合が多くあまり使える物が無いのが現状です。私がブログで行った横須賀線や京葉線のトンネルのレポートはそのような状況を打破するための一種の“挑戦”と位置づけておりますが、この点は草町様と共通するところがあるのではないかと考えております。

    今後も草町様のレポートは趣味活動の上で大いに参考にさせていただきたいと考えております。今後のご活躍に期待いたします。

  2. kusamachi より:

    takuya870625様
    さっそくコメントいただきありがとうございます。
    「空中写真」の記事に関しては、「書きため」できるネタでないと長期の旅行に出られないという事情があったのですが、それはともかく記事で紹介した『国土情報ウェブマッピングシステム』の空中写真は、ただ見ているだけでも面白いですよね。おかげで仕事がはかどりません(苦笑)。

    >鉄道の土木構造物や建築物についてはまだまだ明らかになっている情報が少なく、あったとしても草町様のような公式資料を基に事実を検証しているのではなく、個人レベルの憶測に基づくデタラメな情報の場合が多くあまり使える物が無いのが現状です。

    わたし自身、常に「公式資料を基に事実を検証」した記事を書いているとはいえませんし、それゆえに事実誤認の記事を書いたことも何度かあり、耳の痛い話です。ただ、正確を期そうとすればするほど調査のための時間や費用がかかり、その一方で締切日までの時間や原稿料との均衡、つまり生活できる程度の収入があるかどうかも考えなければならず、なかなか悩ましいところではあります。
    まあ、そのような制約のなかでも、質の高い文章を毎月数十本書いておられるようなライターさんや作家さんもいるわけで、そこは個々のライターの「腕」になってくるわけですが、わたしにはその「腕」がないんですよね……結局のところ、自分をもっと高みに持って行けるよう、努力を重ねるしかありません。

    なんだか愚痴っぽくなってしまい申し訳ありません。これからも読者の皆さんに喜んでいただけるような記事を書いていきたいと思っておりますので、今後ともご指導いただければ幸いです。