主張:言論の自由脅かす不条理 許せぬ「人権」を僭称した抑圧
※産経新聞(東京) 1997年5月3日
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だが、将来、憲法が改正されても変わらない、いや変わってはならない条項の一つは、民主主義社会で最も大切な「言論の自由」の保障である。
にもかかわらず最近、言論の自由をめぐって、いやな出来事がしばしば起きている。典型的なのが「慰安婦の強制連行」説に疑問を投げかけたジャーナリスト、桜井よしこさんの発言を神奈川人権センターが“人権”の名の下に封じ込めた出来事である。
桜井さんが昨秋、小、中学校の教職員を対象に行った横浜市教委主催の講演で「私の取材した範囲では、旧日本軍や政府の方針として慰安婦を強制連行したという資料は現時点では見つかっていない」と話した内容が、「民族差別」「女性差別」にあたる−と今年一月末、桜井さんの講演を予定していた神奈川県三浦市商工会議所に、事実上「講師の変更」を申し入れた。同商議所は桜井さんの講演を中止した。
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五年前の平成四年五月、ノンフィクション作家の上坂冬子さんは新潟市の要請に応じて同市主催の「憲法記念市民のつどい」で講演する予定だった。当時の社会党新潟総支部や共産党市議団、新潟県評センターなど六団体は「改憲を主張する上坂さんを講師に招くのは問題」として抗議し、新潟市は上坂さんの講演を中止した。今回の桜井さんの講演中止問題も、上坂さんのケースも、忌むべき露骨な「自由な言論封じ」といっていいだろう。
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わたしたちは「従軍慰安婦は教科書に載せるべきでない」との立場だが、言論である限り反対の言論も守るのが言論人の務めと心得ている。しかるにマスコミの一部は柳さんの事件や教科書会社については大々的に報道したが、桜井さんへの言論封じや「新しい教科書をつくる会」の関係者への嫌がらせに冷淡なのは理解に苦しむ。
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産経新聞は当時、神奈川人権センターによる申し入れや、社会党や共産党などによる抗議を「忌むべき露骨な『自由な言論封じ』」と批判していた。つまり、抗議という行動そのものが言論封じにあたるとしている。しかも「忌むべき」「露骨な」と、かなり厳しい口調である。
しかし、先日の『国が燃える』休載関連の産経記事は、草町が10月18日朝刊までに確認した限りでは報道記事が10月9・14日の2件、コラム記事が10月16日の1件だが、いずれも抗議行動自体を批判した文言は見られず、抗議した人のなかに地方議員グループがいたことについても触れていない。「反対の言論も守るのが言論人の務め」としながら、一方は「言論封じ」と批判し、もう一方は批判なしでは矛盾しているのではないだろうか。