鉄道時代は撮影名所だったバス専用道を再訪
昨日(4月12日)は鹿島鉄道の廃線跡を散策してきました。昨夏に続いて2度目の訪問です(ある意味復活した茨城のローカル線〜鹿島鉄道)。
つい先日、鹿島鉄道跡地バス専用道を走る代替バス(かしてつバス)の記事を書いたばかりですが(「バスでたどる廃線&未成線」(『鉄道のテクノロジー』Vol.14))、サクラの木の下を走る専用道のバスをどうしてもカメラに収めたくなり、満開の時期を狙って再訪することにしたのでした。
常磐線の電車に乗って、かしてつバス起点の石岡駅に到着したのは朝の7時30分頃。朝食を取ってから専用道バスに乗り込むと、車内は沿線の高校に向かう通学客で満杯です。
10分もしないうちに東田中駅停留所に到着し、停留所の脇に並ぶ満開のサクラが私を迎えてくれました。
鉄道時代の東田中駅や石岡寄りの線路(石岡南台〜東田中)は、列車とサクラを絡めた写真撮影の名所として知られていました。今も専用道の脇には、サクラ並木がそのまま残っています。早速、東田中駅停留所から石岡南台駅方面へ少し歩き、石岡商業高校のグラウンドの手前でカメラを構えました。
レールがアスファルトに、気動車がバスに変わっても、サクラの木の下を走る乗り物という構図は、いささかの変化もありません。写真が下手くそな私でも、そこそこの「絵」に仕上がったのではないかと思います。
ただ、バスは片側にしか運転台がありません。レンズを向けた方角に走るバスは、車体の「お尻」を後追いで写す格好となり、構図的にも微妙な感じになってしまうのが残念なところではあります。鉄道時代は編成の両側に運転台がありましたから、後追いでもごまかすことができたのですが。


ここでバスを何台か写し、1時間ほどしてから玉里駅停留所に移動。ここにも鉄道時代から残るサクラが咲き誇っていました。バスの交換シーンとサクラを絡めた写真を撮りたかったのですが、そう都合よく2台のバスが来てくれるはずもなく。
結局、上下1台ずつ写して再びバスに乗り、小川駅停留所(旧・常陸小川駅)で旧駅構内を少し撮影してから終点の鉾田駅停留所に向かいました。
ホームやレールも残る廃線跡
かしてつバスの専用道化事業は石岡駅〜小川駅間(実際の整備区間は石岡一高下〜四箇村駅間)だけで、小川駅〜鉾田駅間は一般道を走る区間になります。前回は専用道化事業区間を往復しただけでしたから、今回は専用道化されていない区間も含めて廃線跡を散策してみることにしました。
バスは10時50分頃、鉾田駅停留所に到着。鉄道時代の駅舎は既に撤去されていましたが、ホームや線路は雑草に埋もれながらも、ほぼそのまま残っていました。
駅からほど近い食堂で軽く昼食をとった後、今度は徒歩とバスを組み合わせながら石岡方面に戻ります。
鉾田駅から駅前の道路を歩いてしばらくすると、鹿島鉄道の踏切跡が見えてきます。鹿島鉄道の廃止から既に5年が経過していますが、線路敷は廃止当時のまま残っており、レールや橋桁、信号施設などもありました。
ただ、信号機の柱がかなり傾いていたのが気になります。おそらくは先の地震で傾いたのでしょう。そういえば、鉾田駅のホームも床面がゆがんでいて、一部は崩れかけていました。
踏切を越えたところにある新道塔ケ崎停留所からバスに乗り、霞ヶ浦の近くにある浜停留所(旧・浜駅付近)へ。浜駅もサクラの名所として知られていたところです。
枯れ草に覆われながらもホームが残り、線路脇にあったサクラ並木もそのままでした。ホームに腰を下ろすと、ちょうど目の前にサクラの木がずらりと並びます。鉾田で弁当を買って、ここで昼食にすればよかったかなあと、少し後悔しました。
浜駅から先も、要所要所で廃線跡を散策しながらバスを乗り継ぎ、小川高校下駅へ。こちらはベンチを備えた上屋も含め、ホームが健在でした。落書きされてはいたものの、運賃表も残っています。
それにしても、線路反対側のホーム下に描かれた「未来へ走れ!鹿島鉄道」の言葉が何とも……脇に「かしてつ応援団 小川高校 2005.3」と記されていますから、その頃に書かれたものでしょうけど、この2年後の未来、2007年4月1日付で鹿島鉄道は廃止されたのでした。


小川高校下駅のホームを写真に収めた頃には、日の光が赤みを増していました。私は小川駅停留所まで歩いて石岡駅に向かうバスに乗り、東田中駅停留所の一つ先にある南台三丁目停留所で下車。朝方撮影したサクラ並木を今度は反対方向から撮影した後、石岡駅に戻って家路につきました。
ケリをつけたかった運転手の一言
私は列車の走行写真を撮ることは、めったにありません。駅に入ってくる列車の姿をホームの端で撮ることは時々ありますが、駅間で「走り」を撮影するのは年に1回あるかないか。ましてやサクラと列車を絡めた走行写真など、これまで一度も撮ったことがありません。
そんな私がなぜ、バスとサクラを絡めた走行写真を撮ろうと思ったのか。
昨夏、かしてつバス専用道を初めて訪ねた時のことです。石岡駅〜小川駅間を何度も往復して専用道の姿をカメラに収め、帰路に着こうと石岡駅行きのバスに乗り込みました。
バスは私と運転手の2人だけを乗せて、夕暮れ時の専用道を順調に進んでいきます。確か東田中駅停留所にまもなく到着しようかという頃でしたか、運転手さんは左側にある木々の並びを指さし、ぽつりとつぶやきました。
「ここはサクラがきれいなんですよ」
私はハッとしました。レールがなくなっても、列車が走らなくなっても、サクラの木がなくなったわけではない。しかし、鹿島鉄道が廃止になって以来、沿線のサクラのことなど、すっかり忘れていました。
私はいちおう鉄道マニア系の作文屋ですから、鉄道が存在する地域にそれなりの興味を持っていますが、その一方で鉄道が存在しない地域に関しては、どうしても興味が薄くなりがちです。いや、無関心といっても過言ではないでしょう。廃線跡や未成線跡の散策が好きで、鉄道がない(なくなった)場所を訪ねることが比較的多い私ですら、そんな感じなのです。
だからこそ、運転手さんがつぶやいた一言に対し、どうしても自分なりの「ケリ」をつけかった。それが再訪の目的でした。
本当にケリをつけることができたのかどうか、今はまだ分かりません。いや、ケリをつけるとか、つけないとか、本当はそういう問題ではないのでしょう。ただ、可能な限り鉄道以外の交通機関も見聞したい、鉄道のない地域にも関心を持つようにしたい。そういう意識だけは、常に持ち続けるようにしたいと思っています。