中国の最上級寝台車に乗ってみた

夜行列車で「24」スタート地点へ

 「列車による24時間以内の移動距離」世界記録への挑戦を兼ねた「中国高速鉄道縦断の旅」の記事が、まもなく発売される某誌に掲載されることになりました(「24時間」世界記録を更新してきました(ただし自称))。
 これについては発売日の頃に改めてご案内させていただきますが、記録更新のために移動した区間は、既にお伝えしているように瀋陽北→広州南間です。一方で入国地点は上海だったため、まずは上海から瀋陽まで移動する必要がありました。
 そこで、入国翌日に上海虹橋駅から京滬高速線の北京南行き高速動車組に乗車。北京南駅に到着後、当初は地下鉄で北京駅に移動して駅前付近のホテルに泊まり、翌日の動車組で瀋陽に向かうつもりでした。
 ただ、北京〜瀋陽間の動車組は過去に乗車したことがあります。まもなく北京南駅に着こうかという頃、同じ列車に乗るのもつまらないなあと思い始めました。そんなわけで北京南駅到着後にそのまま切符売場に向かい、その日の夜に北京駅を出発する、瀋陽北行き快速K53次の寝台切符を買いました。
 中国では日本と同様、列車の速度や所要時間などに応じてさまざまな列車種別があり、「快速」はJRの急行列車に相当します。ただ、K53次は北京〜瀋陽北間ノンストップで、途中の営業停車駅は一つもありません。実質的にはJRの在来線特急列車に相当する「特快」のうち、原則ノンストップ運転を行う「直達特快」に近い存在です。

トイレや洗面台も備えた高級軟臥

 北京南駅から北京駅に移動し、数時間の待ち時間を経てK53次が待ち構えているホームに向かいました。この日の寝床は13号車5番の「高級軟臥」です。
 中国列車の寝台は「硬臥」と「軟臥」の2種類を基本としています。日本なら硬臥がB寝台、軟臥がA寝台に相当し、硬臥は3段式開放寝台、軟臥は2段式4人用個室寝台といったところでしょうか。
 しかし、これ以外にも「高級軟臥」と呼ばれる最上級の寝台があり、K53次をはじめとした一部の列車に連結されています。
 高級軟臥は2段式の2人用個室です。基本的に相部屋のはずですが、この日は他に誰も乗って来ませんでした。次の営業停車駅は終点の瀋陽北駅ですから、実質的には1人用個室みたいなものでした。
 寝台自体は4人用個室の軟臥のものとさほど変わらないと思いましたが、2段式の寝台が向かい合って4人部屋にしている軟臥に対し、高級軟臥は軟臥と同じスペースに2段式寝台を1組だけ入れているようで、寝台反対側の空いたスペースにソファが置かれ、さらに洗面台とトイレも室内に設置されていました。
 トイレと洗面台は普通のホテルにあるものと同じで広々としており、使い捨ての歯ブラシなども備え付けられています。寝台というよりはホテルそのものですね。
 ここまでやるなら上野〜札幌間の寝台特急北斗星』のA寝台個室「ロイヤル」と同様にトイレと洗面台を収納式にして、シャワーを設置してもらいたいところですが、水タンクの問題もありますし、そこまで要求するのは酷でしょうか。ただ、車両によっては共用シャワー室の付いた高級軟臥もあるようです。
 高級軟臥は情報系のサービスも充実しています。通路側の壁面には液晶ディスプレイ(シャープ製の「AQUOS」)があり、窓側壁面にある操作ボタンで電源のオンオフやチャンネル選択、音量調整ができるようです。おそらくテレビ番組などが流されているのでしょう。もっとも、私が乗った時はボタンを押しても映像どころか音声も入りませんでしたが(苦笑)。
 窓側壁面にはAV操作ボタンのほか電話の受話器のようなものも取り付けられていましたが、これは乗務員呼び出しのほか部屋間の通話にも使えるようです。


 ちなみに部屋の鍵は非接触式の電子ロックで、発車後の身分証確認時にカード式のキーが渡されました。見た目がややみすぼらしいのが残念ですが、部屋の外に出るときも鍵をかけることができますから、治安面でも高級軟臥のサービスは一歩抜きんでています。
 とにかく疲れていたので、室内の写真をちゃっちゃと撮ってすぐに寝床に潜り込み、目が覚めたらもう終点の瀋陽北駅まであと30分くらいでした。カーテンを開けるときれいな朝日が見えました。

硬臥の3倍だがシングルDXの3分の1以下

 高級軟臥のおかげで快適な一夜を過ごすことができましたが、A寝台に相当する軟臥の、さらに上位の寝台ですから、運賃も相当なものです。
 他の寝台と比較してみると、北京〜瀋陽北間732kmで硬臥の下鋪(下段)が183元(約2379円)、軟臥の下段が276元(約3588円)なのに対し、高級軟臥の下段は554元(約7202円)。軟臥の2倍、硬臥の3倍もします。
 もっとも、同距離の東京〜岡山間で『サンライズ出雲・瀬戸』を利用すれば、普通車指定席(ノビノビ座席)で1万3850円、B寝台個室(ソロ)で1万9640円、A寝台個室(シングルデラックス)なら2万6690円ですから、高級軟臥はシングルデラックスの3分の1以下という見方もできます。物価水準が違うとはいえ、日本人の目からすれば高級軟臥でも超格安といえるでしょう。
 高級軟臥が連結されている列車は限られていますが、よほどの混雑期でもない限りすいており、発車直前でも切符の入手は比較的容易です。中国訪問の際は、一度乗ってみてはいかがでしょうか。

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