19日の『レトロ碓氷』に続き(『レトロ碓氷』で改造旧型客車に乗る)、23日は茨城県内のローカル線である、ひたちなか海浜鉄道湊線を訪問しました。
湊線は、常磐線の勝田駅から非電化単線で太平洋側へ東進し、海水浴場のある阿字ヶ浦駅まで延びる、全長14.3kmの路線です。大正時代に湊鉄道の路線として開業し、戦時中の交通事業者統合で茨城交通の経営に変わりました。
戦後は茨城交通による経営が長らく続いていましたが、2000年代に入ると全国各地のローカル線と同様、輸送人員の減少による赤字経営から湊線廃止の方針が示されました。これに対して沿線の自治体(ひたちなか市)や住民が路線の存続を強く要望し、2008年4月1日付でひたちなか海浜鉄道の経営に移行しました。ひたちなか海浜鉄道はひたちなか市が株式の51%を保有しており、要は第三セクター化によって路線の存続を図ることになったわけです。
経営移管後は、積極的な旅客誘致やコスト削減、国や自治体などによる支援を受けて経営改善にまい進していたのですが、3月11日の東日本大震災により路盤が崩落するなど甚大な被害に遭い、全線が運休となってしまいました。
その後、ひたちなか海浜鉄道は復旧工事を推し進め、7月23日に全線での運転を再開しています。
まずは勝田駅から一気に終点の阿字ヶ浦駅に向かいました。車両はディーゼル車のキハ3710形(3710-2)1両。1995年(平成7)に登場した茨城交通発注の新製形式で、3710-2はそれから3年後に増備された車両です。茨城交通も、1990年代は新車を導入する余裕があったんですね。
写真は勝田駅を出発する直前に撮影した車内。平日の朝ラッシュから少しずれた時間帯であったことを考えると、まずまずの利用率といえるでしょうか。ただこの時期、本来なら阿字ヶ浦などの海水浴場に向かう人の利用が見込まれたはずですが、それらしき人の姿は見えません。これも福島第一原発事故による「風評被害」なのでしょうか。
終点の阿字ヶ浦駅には古びた駅舎が残っていましたが、その一方で駅名標が経営移管後の新しいデザインに変えられていたり、あるいはバリアフリー対応のスロープが設けられるなどの変化もありました。
個人的には、利用者の案内という本来の目的を考えたとき、アートが過ぎる駅名標はどうなんだろうという気がしないでもありません。ただ、目を引くデザインであることは確かです。
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以前、このブログで長野電鉄を採り上げた際、「地方私鉄の魅力は、何といっても自社オリジナルから他社譲渡車まで一堂に会する、種々雑多な車両であるように思」うと書きましたが(長野電鉄初乗り)、ひたちなか海浜鉄道にもさまざまな車両があり、キハ3710形のような自社発注車のほか、旧国鉄や北海道の廃止されたローカル私鉄などから購入した車両を保有しています。
帰路の列車は兵庫県の旧三木鉄道からやってきたミキ300形(300-103)でしたし、さらに途中の那珂湊駅では、1960〜1970年代に製造された旧国鉄のキハ20形(205)、旧羽幌炭礦鉄道のキハ2000形(2004・2005)などの姿もありました。
私としてはキハ2000形に乗りたかったのですが、これら古い車両は今ではイベント車のような扱いになっており、平日は基本的に運転されていないのが残念でした。
平日の日中に1往復したくらいで真の状況など分かるはずもありませんが、見た目の印象だけで判断するなら、やはり厳しい状況としか思えません。これならバスでも十分に対応できそうな気がした、というのが正直なところです。
これは見た目だけでなく、数字としても表れています。国土交通省鉄道局監修『鉄道統計年報』(政府資料等普及調査会〜電気車研究会)によると、1日1kmあたりの平均通過数量(輸送密度)は、茨城交通時代の2001年度が1458人/日kmだったのに対し、その後徐々に減少して2007年度には1128人/日kmになっています。一方、ひたちなか海浜鉄道への経営移管初年度となる2008年度は1205人/日kmと増えてはいるものの、何らかの補助がなければやっていけないレベルのままであることに変わりありません。
当面は復旧にかかった費用の補助をどうするかという問題がありますが、仮に地震がなくても厳しい状況であったことは確かです。その点を考慮すると、鉄道が本当に必要なのかどうか、もっとじっくり議論した上で復旧の可否を決めた方がよかったのではないか、とも思います。
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コメント
ご乗車ありがとうございます。
湊線の場合、旅客収入の他に光ケーブルを通しているため土地物件貸付料が4千万円ほど入ります。
また、沿線には合わせて年間400万人が訪れる「国営ひたち海浜公園」「那珂湊おさかな市場」「大洗アクアワールド」などの大観光地も控えています。
加えて、茨城交通時代に重軌条化やPCマクラギ化などの近代化もほぼ完了、償却も終えているため、償却前黒字が出ている状態です。
地震がなければ22年度の経常欠損は約1700万円。あと一歩で採算ラインに乗る状態です。
一般企業も同じですが、ローカル線も見かけだけでないさまざまな個性があります。
早いうちに経営診断することが大切かもしれません。そうしないと助かるものも助からない気がします。
(吉田)
ひたちなか海浜鉄道(吉田)さん>
いつもコメントありがとうございます。
輸送密度がおおむね1000人台中後半なら、外部からの支援を前提に何とかやっていけるレベルというのが私の考えですが、輸送密度が約1200人程度で「あと一歩で採算ラインに乗る状態」ということは、やはりその辺がボーダーのようですね。
私も鉄道が好きですから、心情としては何とか持ちこたえてほしいと思っています。ただはっきり申しまして、輸送密度が1000人台というのは、鉄道が絶対に必要なレベルではないんですよね。
本当に鉄道でなければダメなのか、本当にバスではダメなのか、たとえばかしてつバスのようなやり方もあったのではないか。実際に湊線に乗り、その後にかしてつバスにも乗ってみて、ちょっと複雑な気持ちになったというのが正直なところです。